紫電塔

布教したい OR 需要がありそう? な事柄を不定期に書いています。

Webマンガ 「アッテンボローの怪人」 のすすめ (+考察,解説,感想,etc.)

追記:なんと,作者の佐藤 孔盟さんが当記事をTwitterで紹介してくださいました

僕の感性に合った数少ないWebマンガアッテンボローの怪人」について語ってみようと思う。

アッテンボローの怪人」(以下,A.K.) は佐藤 孔盟さんが描かれたWebマンガで,2000年から約11年 (!) にわたって連載され,2011年12月23日に完結したWebマンガだ。紹介の時期を盛大に逸した感がするが,個人的に怪人熱が再発したのだから,しかたが無い。というのも,佐藤 孔盟さんのブログTwitterをなんと無く読みかえしている内に,A.K.の秘めたるテーマに気づいたのだ。

さて,前半は未読者向けにA.K.の良さを自分なりにピック・アップし,読むさいのアドバイスも載せた。ぜひ参考にしてください。後半は既読者向けに内容の整理,解説,考察,etc. を試みている (未読の方は読まないように!)。

さっそくA.K.のおすすめポイントを3つ挙げてみよう。

1. シュール & マニアックな雰囲気

「百聞は一見にしかず」で取りあえず序盤を読めば分かるのだが,とても無期的な味わいの絵に,現れるのは頭が変なオブジェのヒト型ロボット? たちと,まぁ,かなり変わったマンガである。こうしたシュールさが好きな方ってけっこう多いんじゃないかしら。僕が初めて読んだときは,まずこの独特なムードに1発KOされてしまった。

(http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/tad03p1100/20130918/20130918001631.png)27ページ目 (第3篇) より

A.K.にはブラウザーで読むWebマンガならではの仕かけがあり,絵やふきだしによってはクリックで補足情報などを見れる。これらがまた設計図? だったり妙に詳しい背景知識だったりで,マニアックな作風をさらに強めている。

2. 内容の良さ

雰囲気だけではなく,とうぜん中身も良いわけである。登場人物らの味のある会話にはじんわりとニヤけさせられるし,一風変わったストーリーもおもしろい。

(http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/tad03p1100/20130918/20130918144543.png)9ページ目 (第1篇) より

少女の出現に始まり,謎の飛行物体,8人目のロボット,そして,アッテンボロー博士が恐れた「オイペンドウ」……。個人的には怪人たち (≒ロボットのこと) の系譜が明かされたりする終盤の構成も好みだ。
前述したクリックの仕かけも,ときには伏線的な文章などとして効いてくる。

3. 隠されたテーマ

実はA.K.には,いわば隠しテーマ的なものがある。雰囲気やストーリーだけでも楽しめるが,このテーマに気づくと話にさらに深みが増す。実のところ,僕も隠しテーマを知ったのはつい最近で,それで「す,すげぇ」となってこの記事を書くに至ったわけだが (笑)。
ねたバレになるので詳しくは明かせないが,そのテーマとは「作者」と「登場人物」の関係性を扱ったものだ。これは,話の内容のみならず,(前2項で触れたのとは別の) メタちっくな仕かけによっても示されている。
A.K.は,このようにあるテーマがストーリーに内在しているという点でも,ほかのWebマンガとは一線を画していると思う。

――と,僕なりのおすすめポイントを3つ挙げてみたが,どうだっただろうか。

読むさいは,ひだりのメニュー上では1~27のパートに分かれているものの,マンガ内にその区切りは出てこないので,留意されたし。加えて助言すると,後半はやや話が複雑になるので,初読時はすこし混乱するかも知れない。クリックの補足説明を読みつつ再読すれば,頭の靄を晴らせると思う。
作者のHPに主要な怪人たちの高クオリティーなCG画像が公開されている。読むまえに見てみるのも手だろう。あと,初読時にクリックの補足説明を全部見つけだそうとすると,ストーリーの本筋に集中できないかも知れない。初読時は軽く,再読時に隅々まで探すのがおすすめだ。

さて,ここまでの文がA.K.の布教にひと役買うことを望みつつ,既読者向けの考察などに移ろうと思う。

注記以下,核心部分についてのねたバレがあります

時系列的にやや複雑なところをおさらいがてらに概観してみる。

アッテンボロー博士がオルフェ・クルムント=モンティアンと出会い,オイペンドウの存在を知らされる。オイペンドウ対策としてモンティアンの技術を元にアルフォビアを作り,ダミーの地球 (UP1) を生成する。しかし,このとき,UP1をひとのいない死の星にする筈が,アルフォビアが陵辱系マンガを参考にし,そのマンガの設定を忠実に再現してしまったせいで,UP1が本物の地球とほぼ変わり無いものになってしまった。さらにUP1とは別にファンタジー・ゲームを元にした星 (UP2) もできてしまう。

さて,UP1に降りたったオイペンドウ (エルタゴン・オイペンドウ=モンティアン) は無差別破壊を行い,その世界の中心的存在である望月 香里を守るために,彼女を空間のはざまへ吹きとばす。ダミーの不安定な星であることに加えて中心的存在が無くなったせいで,UP1は滅亡する。さらにエルタゴンは本物の地球にも来て,問題のマンガの作者を殺す。

アッテンボロー博士はUP1の問題を解決すべく (いっぽう,オルフェはUP2の問題を担当していた。一時はパルトマー・テハインド=モンティアンも関わっていたようだ),UP1の,望月 香里が再び現れるだろう位置に施設を移し,オルフェから授かったテガタイテンで「アッテンボローの怪人」たちを作る。が,その中途で博士は死去してしまい,ボイドによってモンティアンの生息域にいたオルフェ,アルフォビアに手紙が届けられる。時が経ってUP1の研究所に望月 香里が現れる。それを知ったオルフェはアルフォビアを載せた船でUP1へと向かった。……

怪人たちの種族についても軽く整理してみよう。

モンティアン族の亜種のひとつに独自の言語を使うヴォード族があった。ディヴォロウ族 (補足説明では「デヴォロウ」と表記されている),オイペンドウ族はその後継種族で,バックライフ (大将) は前者の直系にあたる。ほかにはテハインド族,クルムント族,ヴェイヒルト族といった種族も挙がっている。

前半でも書いたが,僕はこの系譜話がけっこう気に入っている。無機的な見ための怪人たちにも血統があること自体がおもしろいし,怪人たちの歴史を仄めかすことでA.K.にグッと深みも出ていると思う。下のパルトマーのセリフ,良いなぁ。

(http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/tad03p1100/20130918/20130918121345.png)270ページ目 (第23篇) より

ところで,この物語は,UP1の問題も片づいていよいよUP2篇が本格始動するぞ,というところで終わっている。ひとによっては唐突に感じるかも知れない終わり方で,佐藤 孔盟さんもやや“強引に締めた感は否めない”とブログで書かれている。でも,僕は良い終わり方だと思う。UP2の問題も解決して単に円満エンドを迎えるよりも想像の余地があるし,なにより「3. 隠されたテーマ」で仄めかしたテーマ的にも,とても余韻のある締め方だからだ (まぁ,終わり方自体は当初の予定通りらしいけれど)。

さて,好いかげんそのテーマを明かせば,「『作者』の絶対性をうち壊す」ことだと言える筈だ。以下,このテーマを掘りさげてみる。おおきくハズれてはいないと思うが,一読者の考察としてお読みください

エルタゴンは,望月 香里を“世界の中心”で“通常の生物とは構造が違う”から救ったと言う。UP1のベースとなったマンガの主人公である上に当時のアルフォビアも不完全だったから,無理は無い。

ここで別の見方をしてみる。UP1のベースとなった『煩悩遊戯』はタブリン浩一の創作物に過ぎない。「作者」は絶対的な存在だ―― 作中の登場人物らを思いのままにできるし,作中世界から危害を加えられることもありえない。だが,A.K.においてはどうだろう? UP1は『煩悩遊戯』のコピーであり,タブリン浩一が創ったと言っても過言では無い。彼の創作物だ。しかし,実際は,彼が描いたとおりの展開になるどころか,望月 香里はエルタゴンによって救われ,UP1は滅び,作者として絶対的な存在である筈のタブリン浩一もエルタゴンに殺されてしまう。これが「作者」の絶対性をうち壊すということだ。

……単なる深読みに思われそうだが (笑),実は,佐藤 孔盟さん自身が「オイペンドウは“クリエイターを殺す化け物”だ」と仰っていて (cf. 2013年6月30日の記事),僕の考えはそれを基にしている。

追記:前半で言っていた“隠しテーマ”とは「『作者』の絶対性をうち壊す」ことだと書いたが,正しくは「オイペンドウが“クリエイターを殺す化け物”である」ということに訂正させていただく。作者の絶対性を云々は考察の域を出ず,隠しテーマだなんて断定すべきではないと考えあらためたからだ。

こうしたテーマはまた,エルタゴンがUP1を破壊したことのみならず,ある象徴的な方法 (前半では「メタちっくな仕かけ」と表現した) によっても暗示されている。すなわち,(佐藤 孔盟さんが公にされていないので,反転して読むようにしました→) 前ページにBackボタンで戻ったばあい,エルタゴンの出ているコマが黒く塗りつぶされている。これについては,上でもリンクさせた2013年6月30日の記事に作者からの説明が軽くあるので,そちらをまず読まれたし。その上で僕なりに考察してみると,エルタゴンがA.K.という創作物にふつうはありえない影響を及ぼしている……,本質的には,エルタゴンがUP1を滅ぼしたことの高度な別表現だと思う。滅ぼされたUP1にせよ黒く侵されたA.K.にせよ,創られた世界をムチャクチャにしてしまう辺り,オイペンドウが“クリエイターを殺す化け物”と言われるゆえんなのだろう

作者の絶対性を云々は,より正確には「作者-作品-登場人物 間の絶対的な関係を破る」ことだと言いかえられる。注目したいところは,これはUP1篇だけでなくUP2篇にも言えるということだ。マンガをゲームに,エルタゴンを「アッテンボローの怪人」たちに置きかえれば良い。ゲームを基にして創られたUP2という世界に,作品外の存在である怪人たちが乱入するわけだ。ただし,UP2篇ではゲームの「プレイヤー」という概念も出てくる点で,より複雑になっている。

僕的にA.K.がスゴいと思うのは,いわば階層の違う者たちや世界 (作者,作者が創った世界 & 登場人物,作品外の別次元的な存在,etc.) が,メタ・フィクショナルな手法を用いずに描きだされていることだ。

『ゼクレアトル ~神マンガ戦記~』というマンガでは,主人公が“このマンガの主人公な”と第1話で告げられる。推理小説で,実は全篇が読者に宛てたメッセージだった,というものを読んだこともある。このように,作者や登場人物,読者が絡んでくる作品には作品自体を利用する (メタ・フィクショナルな手法を用いる) ものが多いと思う……,ってか,そうしなくちゃあ難しいと思う。
ところがA.K.では,ダミーの星を生成する「アルフォビア」を登場させることで,多階層的な概念をうまく作品内で描ききっている。作者や登場人物などの関係性をダミーの星を使って描こうなんて僕なんかでは思いつかないだろう。さすがだなぁ,スゴいなぁ,と感じるしだいだ。

さて,最終回についてたち返ろう。

草原に佇む殺戮者。口を描いて作った笑顔で少女を見おくる。そして,どこか寂しげにその場を去る……。これだけでも十分に趣深い終わり方だが,ここまで書いてきた考えを踏まえて読むと,さらに深みが増すと思う。まぁ,この終わり方は「考えるな。感じろ!」ってもので,意味付け方法は十人十色だろうが,その上で僕の受けとめ方を書いてみる。

望月 香里は『煩悩遊戯』の登場人物で,そのマンガで描かれているとおりに悲惨な経験をする筈だった。マンガの登場人物が当のマンガをどうこうできるわけが無い。だが,UP1に降りたったエルタゴンは彼女を救い,UP1を滅ぼした……,『煩悩遊戯』の登場人物を『煩悩遊戯』から解きはなしたのだ。救い,救われたエルタゴンと望月 香里は,そうした越常的な関係上にあると言える。この辺りの関係が,僕は最終回で最も印象的に感じた。

おなじく印象深いのは,エルタゴンと望月 香里にとって,最終回が (森 博嗣の表現を借りれば)“微分したらゼロ,最接近のポイント”だということだ。望月 香里は救ってくれたことに感謝して嗚咽を漏らし,彼女を見送ったエルタゴンも満足そうだが,再びふたりが出会うことはもう無いに違い無い。近辺には近づかないという約束もあるが,そもそも,望月 香里が地球で平和な日々を送る限り,エルタゴンの出る幕はやって来ないだろう。また,(上で黒塗りしたところに関係しています→) Backボタンで戻ってみると,コマを塗りつぶしていた闇が徐々に薄まっている。エルタゴンの満足感や安心感を表すとどうじに,望月 香里から手を引くことを暗に示しているのかも知れない。最終回が,ふたりが心を通わせた最初で最後の回だと思うと,中々に切なくなる。

すこし穿った読み方をすれば,A.K.はオイペンドウを起点とした物語だと言える。アッテンボローの怪人たちはUP1/2の問題を解決するために生みだされ,元を辿れば,そのUP1/2もオイペンドウ対策で生成されたものだ。
最終話を,これから本格的に始まるUP2篇ではなく,UP1篇に戻ってオイペンドウのひとりであるエルタゴンで締めくくるというのは,A.K.の起点に呼応しているという点でも,美しく良い終わり方だと思う。

内容をかなり厳選して書いたものの,けっこうな文量になってしまったなぁ (笑)。

長々と自己流の解釈を垂れてきた僕だが,よく分からないところが無いでは無い。例えば,コルトが2枚の紙を重ねて「?! まさかな……」と訝しむシーン (第13篇) がそうだ。UP2篇で説明される予定だったのだろうか。なににせよ,僕は,謎はすこしぐらい残っているのが普通というスタンスなので,問題は無い。……あ,自分が説明シーンを読みとばしてるだけってのが一番ありそう (汗)。

追記:佐藤 孔盟さんが解説記事で説明してくださいました。ううむ,さっぱり気づかなかった。

とまれ,ここまで読まれた方に言う必要は無いだろうけれど,アッテンボローの怪人」はユニークな魅力と奥深さを併せもった名作である と明記して,この記事を終わりたい。

P.S. 「部分列」については,「これはなに?」でほっこりした とだけ書くに止める。

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